先日、古い本をパラパラとめくっていて

星新一ショートショートを思い出した。
未来の話で、火星での出来事。
火星の奥地で仕事をして、
久しぶりに街に戻ってきたら、
誰も居ない。
人っ子一人居ない。
地球に大事が起きて、
火星に居る地球人は全員慌てて地球に戻ってしまったらしい。
奥地に居た男は、
火星に一人取り残される。
探し回っても誰も居ない。
誰か残っていないか!!
男は狂ったように電話をかけまくるけど、
電話の呼び出し音が空しく響くだけ。。
ライフラインが正常なのは何故かはさておき)
誰でもいい、誰かと会って話がしたい!
誰か!誰か!
誰か居ないのかー!!
あきらめきれずに、
毎日電話をかける。
あきらめかけた頃、
「はい」
と電話の向こうで女の声がした。
人が残っていた!
男は狂喜乱舞して、女の場所を聞き、
飛ぶように会いに行った。
久しぶりに人と話せる。
胸の動機も高まろうってもんだ。
待ち合わせの場所で待っていると、
一人の女がやってきた。
手に持ちきれない程の食べ物を抱え、
醜く太った女がえっちらおっちらやってきた。
「地球に行ったって誰も振り向いてくれないし、
 ここに残って好きなだけ食べてやろうと思ってさ」

女は歯をむき出しにして醜く笑った。
その顔を見たとたん、
男は回れ右をして、その場を立ち去った。
女は追いかけてはこなかった。
それから男は、一切電話をしなくなった。
一生食べるだけの食料を確保し、
本を読んだりビデオを見たりして、
一生一人で暮らそうと決意した。
たまに電話が鳴ることもあるが、
男は受話器をとるつもりは無い。