ワンピース

大阪に出稼ぎに来て、はや○十年。
実家には、私の物は殆ど残っていないのだけど、
1枚だけ、私の若い頃のワンピースが残っていた。
買った時期も、買った店も覚えている。
地元にあった、最新流行の服を売るあこがれの高級店。
就職して自分で稼いだ給料で、
初めてあこがれの店で買ったワンピース。
自分でも思い入れがある服ではあるが、
他の、実家にあったもう着ていない服達は
もう1枚も残っていないのに、
何故この1枚だけがいつまでも残っているのか、
よくわからなかった。
それが、ある時わかった。
それは、母だった。
高校卒業後、地元企業に就職した私は、
その半年後に東京支店に転勤になった。
東京へ旅立つ日、
仲のよかった友人2人と母が、
松山空港まで見送ってくれた。
飛行機に乗るのは初めてで、
全員勝手がわからないものだから、
まだ時間はたっぷりあるのに早々とチェックインしてしまい、
見送りに来てくれた人と何もしゃべれないまま、
お互い別れの涙にくれた。
その時、私が着ていたのが、
実家に残っていたワンピースなのだそうだ。
私は着ていた服の事などすっかり忘れていたのだけど、
母はずっと覚えてくれていた。
「だからこれだけは捨てられなくてねぇ」
胸の奥がキュンとなった。
これが「母」なんだなぁ。。。
そのワンピースは、
今は大阪の私の洋服ダンスにしまってある。