母の日

母から電話があった。
父が亡くなってから、
毎週日曜日の夜、必ず母と電話で話す事にしている。
その日は、私が産まれた時の話になった。
なんでそんな話になったかというと、
GWに帰省した時、母を山の畑に連れて行ったからだ。
母は「車の移動はしんどいから」と
日頃遠出をあまりしたがらないのだけど、
その日は天気が良く、体調も良かったせいか、
珍しく一緒に行くと言い出して、車で出かけた。
畑は小高い山の中腹にあり、
近くまでは車で行けるのだけど、
畑に行くには、急なあぜ道を徒歩で登らなくてはならない。
そのあぜ道を、私が母をおんぶして登り、
姉と3人で、えんどう豆を袋にいっぱい摘んだ。
持ち帰った豆を母と2人でさやからはずし、
姉が豆ご飯を作ってくれ、皆で食べた。
そんな一日が、よほど嬉しかったらしい。
「産んだ子におんぶしてもらって畑に行けた。
産んで良かった。
生まれてきてくれてありがとう」
母は嬉しそうに言ってくれた。
私が母のお腹にいる時、
母は病に罹り、入院していたのだそうだ。
家は貧しく、病院の給食代が払えなくて、
父は毎日お弁当を作って病院に届けたそうな。
まだ幼い兄と姉を抱えた両親に、
医者はこう言ったそうだ。
「このままだと母子共に危ないかもしれない。
 お腹の子供はあきらめた方が・・」
そんな話を聞いたのは初めてだった。
医者の助言をきいて、両親があきらめていたら、
私はこの世に産まれなかったんだ。
少しの間、口がきけなかった。
そして、母に言った。
産む決心をしてくれて有難う。
産んでくれて有難う。
そして、育ててくれて有難う。