マンションのエレベーターを降りたら、
小学校3年生くらいの男の子が前を歩いていた。
玄関に新聞を取りに行くのだろう。
黒い鼻緒の大人の桐下駄を履いて、
カラコロ楽しげな音を響かせている。
「お父さんの下駄?ステキね」
と言うと、
「うん♪」
ちょっと恥ずかしそうにうなずいた。
マンションの玄関を出ると、
植え込みの根元に、
松葉ボタンが、ピンクの可憐な花をつけていた。
そこへ管理人さんが通りかかったので、
「松葉ボタン、カワイイですね」
と言うと、
「マンションのお掃除の方が、おうちから持ってきて植えてくれたんです」
「まぁ、そうなんですか」
「行って来ます。」

「いってらっしゃい」
空は青く、
虫や鳥達が命を謳い、
川辺では釣り人が糸を垂れる。
緑の夏草が生い茂る土手を渡る風が心地よい。
私はなんて素敵な世界に住んでいるんだろう。